2017年(平成29年)から「セルフメディケーション税制」が始まります。
これは医療費控除の特例としてスタートした新しい制度で「医療費控除の対象者」が拡大されます。
ここではセルフメディケーション税制がどういったものか分かりやすくご紹介します。
内容はかなり長くなりましたが、知っていると得することなのでぜひ参考にしてください。
目次
セルフメディケーションという考え方
いきなりですが「日本の医療費は今どれくらいかかっているのでしょうか?」
あなたはご存知でしょうか?
「世界保健統計2016」によると日本は平均寿命83.7歳とされ、世界一の長寿国です。
この超高齢化により、年々医療費は拡大していっています。
厚生労働省の「平成27年度 医療費の動向(PDF)」によると、2015年度(平成27年度)の日本の概算医療費は41.5兆円と過去最高です。
とんでもない金額ですね…
今、この『医療費の高騰』により日本の医療保険制度がピンチになっているわけです。
そこで出てきたのが「セルフメディケーション」という考えです。
セルフメディケーションとはセルフ(self)=「自分自身」で、メディケーション(medication)=「薬を用いて治療する」を意味します。
つまり、医者にかかるより市販薬で自分で治してもらう方が医療費の節約になるということですね。
この考え方を推進するため、一定条件のもとで所得控除を受けられる制度として創設されたのが「セルフメディケーション税制」です。
セルフメディケーション税制ってどんなもの?
具体的なセルフメディケーション税制の内容は以下のとおりです。
簡単に言えば、市販薬の購入で減税できるということです。
期間は「毎年1月1日~12月31日」に購入した市販薬が対象となります。
ただし、このセルフメディケーション税制は『平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間』の制度になっています。
対象となる市販薬とは
対象となる薬は、市販薬なら何でもいいわけではありません。
スイッチOTC医薬品に限定されています。
スイッチOTC医薬品って?
医師が処方する医療用医薬品に対し、一般的に「市販薬」や「家庭薬」と呼ばれる薬局・薬店・ドラッグストアなどで購入できる薬をOTC医薬品といいます。
そして、医療用医薬品から転用された市販薬を「スイッチOTC医薬品」と呼びます。
「イブ」や「ガスター」、「ロキソニンS」などが有名ですね。
具体的に対象となる薬は「特定の成分を含んだOTC医薬品」に限られていて、厚生労働省からリストが発表されています。
<平成29年1月17日時点>
→対象医薬品品目一覧(PDF)|厚生労働省
※2ヶ月ごとに更新される予定なので常に確認が必要になります。
対象となるものとならないものがある
対象となる医薬品の薬効には、「風邪薬」「胃腸薬」「鼻炎用内服薬」「水虫・たむし用薬」「肩こり・腰痛・関節痛の貼付薬」があり厚生労働省で発表されています。
※ただし、上記薬効の医薬品全てが対象となるわけではありません。
○ 対象となる | ✕ 対象外 | |
---|---|---|
風邪 | ・風邪薬 ・鎮痛剤 |
・漢方薬 |
目の痛み・かゆみ | ・花粉症用目薬 | ・疲れ目用目薬 |
肌荒れ | ・治療用 | ・保湿剤 |
その他 | ・水虫治療薬 ・湿布 ・かゆみ止め |
・育毛剤 ・栄養ドリンク |
このように、同じ薬効などでも対象外があります。
また、同じような商品名でも対象となったりならなかったりするので注意が必要です。
対象となる | 対象外 | |
---|---|---|
バファリン | ・EX ・プレミアム |
・A |
ベンザブロック | ・のど、熱 | ・鼻 |
など…「バファリンEX」は対象ですが、「バファリン」は対象外になります。
これはややこしい…
でも安心してください。実は、簡単に見分ける方法があります。
対象となる市販薬を見分けるには
対象となるスイッチOTC医薬品は約1,500品目を超えていますので、覚えれる数ではないですね…
実は、控除対象となる市販薬のパッケージに目印となる専用の「マーク」が付いています。
使用例はこんな感じ
マークを拡大すると
上図のようなマークがどこかに付いていますので分かりやすいですね。
(法律上の義務ではなく、自主的な取組になります)
また、対象商品を購入した際には、レシートにセルフメディケーション税制対象医薬品であることが記載されています。(申告時に必須なので、大切に保管しておきましょう)
ネット通販でも簡単に見分けれる!
今ではインターネットの通販サイトで手軽に医薬品を購入できます。
Amazonや楽天市場など大手通販ショップでは「セルフメディケーション税制対象商品」と表示されていて、対象商品が絞れるのでオススメです。
●Amazon
●楽天市場
対象となる人は?
セルフメディケーション税制の対象となる人は以下の条件を満たす必要があります。
➀所得税・住民税を支払っている
今までの医療費控除と同様に、あなたが支払う税金の一部を減税してくれる制度になります。
逆に言えば、その2つの税金を支払っていない場合は減税することができませんので意味がありません。なので課税されている人が対象になります。
②1年間で自発的な健康管理や病気予防を行っている
厚生労働省では、「健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人」が対象として挙げられています。
少し難しく定義されていますが、簡単です。
一定の取組とは、以下のいずれかの事を行えばよいとされています。
②インフルエンザ等の予防接種
④勤務先で実施する定期健康診断
⑤保険者が実施する健康診査
⑥市町村が実施するがん検診
会社員の人であれば、会社の『定期健康診断』を受けているはずなのでそれだけで対象なります。
また、インフルエンザの予防接種や、保険者(協会けんぽ、健康保険組合等)の人間ドックを受けている人も多いと思いますので、さほど条件として厳しくないですね。
あなたが申告する場合、配偶者や子どもなど家族が「一定の取組」を行っている必要はありません。
③1年間でスイッチOTC医薬品を合計1万2,000円を超えて購入している
控除を受けるためには、対象のスイッチOTC医薬品の購入金額の合計が1年間(1月~12月)の間に、1万2,000円を超えている必要があります。
ただし、”生計を一にする”家族の分の購入費用も合算できます。
”生計を一にする”とは簡単に言うと「サイフが一つ」である家族です。
子どもが一人暮らしで別居していても、仕送りしているなど生活費等を面倒見ていれば「生計を一にする」と言えます。
どれだけ節税できるの?
セルフメディケーション税制は対象の医薬品購入額が12,000円を超えた場合に、その差額が所得控除できます。
ただし、注意点として控除できる金額には上限があり「最高88,000円」までで、それを超えても一律で88,000円が控除額となります。
「所得控除」というのは、課税される金額から引いてくれる(控除する)ものです。
控除された金額に税率をかけたものが節税になります。
所得税の税率は消費税のように一律ではなく、「5%、10%、20%…45%」と所得の多い人ほど高くなっていきます。
つまり、同じ控除額でも年収が高い人ほど節税になる金額が多くなるということです。
イメージしにくいと思いますので、実際に計算してみましょう。
セルフメディケーション税制の実際の計算例
課税所得400万円(年収目安600万弱)の人が、対象医薬品を年間で2万円購入した場合…
2万円(対象医薬品の購入金額)-1万2,000円=8,000円
となり、8,000円が課税所得額から控除されます。
8,000円の控除額でどれくらい税金が安くなるのか…
翌年度の住民税:控除額8,000円×個人住民税率10%=800円
となり、合わせて2,400円の減税効果となります。
「なんだ、その程度か…」と思ったのは私だけではないはず。。
とは言っても、所得金額が違えば減税額も違ってきますし、少しでもお得になるなら活用したいところですね。
セルフメディケーション税制のメリット・デメリット
1番のメリットは、医療費控除を受けられる可能性が高くなるということ。
従来の医療費控除の10万円という壁が高い理由から「医療費控除は自分には関係ない」と思っていた人でも、セルフメディケーション税制であれば節税できる可能性がでてきます。
デメリットとしては、対象がスイッチOTC医薬品に限られていますので、市販の薬をあまり買わない人には、あまり恩恵は得られません。
この制度は、『医者にはあまり行かないが市販の医薬品はよく買う』といった人にメリットがありそうです。
1つ注意点としては、この二つの制度は同時に利用できないことです。
『セルフメディケーション税制』か『医療費控除』のどちらか一方を選択することになります。
従来の医療費控除との違いは?
「今までの医療費控除との関係は?」そう思った人も少ないと思います。
セルフメディケーション税制は医療費控除の特例であり、全く異なる新しい制度ではないということ。
従来の医療費控除は、病気やケガなどで病院の治療費・薬代が対象となります。
この費用が10万円を超えると、超えた部分について所得控除ができます。
セルフメディケーション税制は、あくまでスイッチOTC医薬品の購入に限られています。
この費用が1万2,000円を超えると、超えた部分について所得控除ができます。
また、控除の上限額にも違いがあります。
次にセルフメディケーション税制と従来の医療費控除の内容を簡単に比較したものをまとめてみました。
また、従来の医療費控除は対象者は誰でも利用可能でしたが、セルフメディケーション税制は一定の取組が必要な点にも注意しましょう。
セルフメディケーション税制の賢い使い方
従来の医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらで申請する方が得するのでしょうか。
ぱっと金額を見れば、「10万円未満ならセルフメディケーション税制で申請」、「10万円を超えたら従来の医療費控除で申請」と思いがちですが、実はこの制度の本質はそうではありません
ポイントとしては、二つの制度のどちらで申請した方が控除額が大きくなるかを注目しましょう。
治療目的で購入したセルフメディケーション税制対象医薬品(風邪薬など)は医療費に含むことができます。
1番重要な点は、医療費の内訳にあります。
分かりやすいように、例を出して説明します。
【医療費15万円の例】
1年間で入院や治療費やセルフメディケーション税制対象医薬品の購入費用などを含めた医療費が15万円だったとします。
例①:スイッチOTC医薬品の購入費用が5万円、それ以外の費用が10万円で計15万円の場合
この例①の場合、
なので『医療費控除』で申請する方がお得になります。
例②:スイッチOTC医薬品の購入費用が8万円、それ以外の費用が7万円の計15万円の場合
この例②の場合、
なので『セルフメディケーション税制』で申請する方がお得になります。
このように、医療費に何にいくらかかったのかを把握すれば、お得になる方の制度を選択することができるのです。
セルフメディケーション税制はどう手続きするの?
セルフメディケーション税制は、従来の医療費控除と同じく会社で年末調整できません。
なので申請には『確定申告』が必要になります。
申告の対象者は前述した以下の要件を満たす必要があります。
・1年間で健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行っている
・1年間でスイッチOTC医薬品を合計1万2,000円を超えて購入している
セルフメディケーション税制の必要書類は?
従来の医療費控除では確定申告には医療費の明細書とその領収書が必要です。
セルフメディケーション税制では以下の2点の書類が必要になります。
・スイッチOTC医薬品の購入時のレシート
一定の取組の証明方法は?
一定の取組とは、「健康の維持増進及び疾病の予防への取組」のことで、定期健診やインフルエンザの予防接種などです。
取組を行った証明として次のどれかの書類があればOKです。
一定の取組内容 | 証明書類 |
---|---|
特定健康診査(メタボ健診) | ・領収証又は結果通知表 ※「特定健康診査」という名称又は「保険者名」の記載が必要 |
予防接種(インフル等) | ・領収証又は予防接種済証 |
定期健康診断 | ・結果通知表 ※「定期健康診断」という名称又は「勤務先名称」の記載が必要 |
健康診査(人間ドッグ等) | ・領収証又は結果通知表 ※「勤務先名称」又は「保険者名」の記載が必要 |
市町村のがん検診 | ・領収証又は結果通知表 |
領収書は原本の提出となります。
結果通知表はコピーの提出が可能となっています。
また、診断結果部分は不要なので黒塗りや切り取りしたコピーでOKです。
詳しくは、厚生労働省の「一定の取組の証明方法について」(チャート)で確認できます。
スイッチOTC医薬品の購入時のレシート
対象商品を購入したという証明になりますので必須です。
レシートには次の5項目の記載が必要となっています。
- 商品名
- 金額
- 当該商品がセルフメディケーション税制対象商品である旨
- 販売店名
- 購入日
…となっていますが、スギ薬局など大手ドラッグストアではレシートに全て記載されるようレジが対応していっているのでそこまで気にする必要はありません。
このようにレシートには対象商品に「★」などのマークがついて、欄外に「★印はセルフメディケーション税制対象商品です」と記載されています。
また、「★」などのマークがなくてもレシートは有効で、自分でマークを付けて欄外に対象商品である旨を記載するなどの方法も認められています。
しかし、近所の小さな薬局などではレシートが発行されないこともあります。
その場合は、下記のように領収書を発行してもらいましょう。
ただし書きで対象になる全ての商品を記載してもらいます。
最後にまとめて一気に仕分けすれば手間は省けます。
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